人生山あり谷あり。嬉しいこと辛いこと、色々な気持ちになることがありますがそんな時ふいに昔読んだ漫画のセリフが蘇ることがあります。今回はそんな印象深い漫画のセリフをくつしたの拙い人生経験と共に語ります。
はい誰の役にも立たない自己満足内容となります。それではどうぞ。
※ネタバレを含んでいますのでご注意ください。
“しっかり生きなさい”
島キヌヨ 「HaHa」押切蓮介
ホラー漫画のイメージが強い押切蓮介先生ですがこの作品は自身の母親をモデルにした青春?漫画になるでしょうか。
もちろんギャグ要素もふんだんにあります。
家族というのはかなり難しい題材のはずですが読ませる力量はさすが押切先生。
ちょっと乱暴だけど楽しい人たちに囲まれてのびのび暮らしていた亘江(作者の母)の若き日の思い出、自立、別れを現在と行き来しながら描く感動作。
「しっかり生きなさい」は亘江の母(作者からは祖母)のセリフ。
ネタバレになるので詳細は伏せますが発したタイミングに泣きます。
私は自堕落な自分に嫌気が差した時によく思い出します。
どんな絶望の中にいたって日々が続くのなら背筋を伸ばして生き続ける。
そうして少しずつ乗り越えて強くなっていく。
あのお母さんの亘江への言葉だからこそ印象深い。
“しまっておけ今は 笹嶋への殺意を楽しむ暇はない”
新城直衛 「皇国の守護者(漫画版)」佐藤大輔・伊藤悠
「あれ?前任者の方から伝えられていませんか?」仕事での引き継ぎにおける最大の難所、伝達ミス。
それもわざと伝えていかなかったのか?と勘繰る程度には致命的な箇所だったりする。
もっと悪いとどうにもならない大問題。
前任者に詰め寄っても「自分はもう担当ではありませんので…」とすげなく追いやられることもある。
いや私のミスじゃないからねってのは通用しない。
暗い感情が湧き上がる。しかしここで前任者への憎しみに駆られてはいけません。
どうにもならないものをどうにかしなければならない。
それが働くという事なのです。
漫画版の皇国の守護者は捨て駒部隊の指揮者となる主人公が目的を完遂するまでを描いた作品だが戦況が常にシビアなので地獄か奈落かを選び続けなければならない絶望感が伊藤悠さんの天才的な表現で展開する。
今回選んだ名言は外部に頼んだ作戦が失敗しており、なおかつその報告が最後まで無かった(やむをえない状況だったのだが)ことが判明した際に主人公・新城が冷静さを取り戻すために己に言い聞かせたセリフ。
尻拭いしなければならない相手へは暗い気持ちを抱きがちですが、殺意とは楽しむものであって取り込まれてはいけない。
上記にあげたウンチのような私の経験を並べるなど僭越もいいところなのですが、新城指揮する皇国軍に比べれば私の「どうにもならないものをどうにかしなければならない」状況などまだ切り抜ける手段が有り得ると己を鼓舞することができます。
“いちいち癇にさわるヤローーだ!!”
フリーザ 「ドラゴンボール」鳥山明
以前勤めていた職場の上司に対して抱きがちだった名言。
“だったらあんたが戦ってよ”
美樹さやか 「魔法少女まどか☆マギカ」アニメ
まどマギの中では評価の割れるさやかのシナリオ。
特にこのセリフを含むシーンは主人公まどかへの辛辣な姿勢からさやかへの好感度がかなり落ちがちな印象です。
作中では魔法少女になることへの報酬として一つだけ願いを叶えてもらえるのだけど、さやかはそれを他人のために使います。
他人の幸せを願う行為は、これまであらゆる物語で心優しい登場人物たちがやってきたことです。
しかし本当に人は他人の幸せのために自分の全てを捧げられるのか?それをこのかわいい絵柄で突きつけてくるのがまどか☆マギカなのです。
宝くじ高額当選者のその後の人生が必ずしも幸せではないように、願いが叶ったその後の結果を支える強さが中学生のさやかにはまだ無かった。
爆発寸前の悪感情を理性で押さえつけて自分を正当化しようとするから、まどかの優しさから来るほんの少しの批判でさえも全否定されたように感じて耐えられなくなる。
こういう本当の気持ちを理性で押さえ込んだ末に魔女化するのって古い所だと六条御息所(源氏物語)が生き霊を飛ばしたのと似ていると思うのだけど結構有りがちな感情なんですかね。
人は千年も前から同じことを悩み続けているとか業が深いというか紫式部の観察眼すごい。
「だったらあんたが戦ってよ」「じゃあお前がやってみろよ」「外野がわかったようなこと言うんじゃねえよ」「どうせあたしが悪いって言いたいんでしょ」歳を重ねていると一回は思ったことのある感情ではないでしょうか。その古傷を真っ向から切りつけてきたセリフです。
ただ私個人としてはさやかの願いは嘘も偽りもない本当の気持ちだったと思っています。
おそらく自分本位の願いを叶えていたとしても自己嫌悪に苦しむことになったのではないか。
だからこそどんな願いが叶ったとしても苦しむ結果しかなかったんじゃないかと思うと辛い。
“生まれた時に決定されたもの?そんなの踏みつぶしてやったわよ”
りりこ 「ヘルタースケルター」岡崎京子
岡崎京子先生のネームの切れ味はどれもすごい。本当に登場人物の臓腑から出た言葉のような説得力がある。だからこそどのセリフも突き刺さります。
主人公のりりこはいわゆる整形美人。
それも手を入れていないのは目玉と爪と髪くらいというレベル。
しかし暴言を吐き、妬み、他人を蹴落とし枕営業をしてまで一番であろうとする彼女に見た目以外の可愛げは一切ない。
タイトル通りしっちゃかめっちゃか(ヘルタースケルター)な人物なのだが、これがとんでもなく魅力的なのです。
上に書いたまどマギのさやかは自身の願いのために身を滅ぼすことになったのですが、りりこは地獄に落ちて火だるまになりながらも願いのために爆進し続ける強かさを持っています。
このセリフは正にりりこの生き様を表しています。
過去の自分に一縷の同情さえせず全てを抹消して作り変える。その無慈悲さが踏みつぶすという言葉に集約されているように私には思えてならない。
ストーリーとしては若い女性が自殺を図る事件が相次いで起こり、彼女たちの軌跡を辿るとある美容整形クリニックの存在が浮上してくる。
しかもそこには今をときめくスーパーモデルのりりこが上客として通っていることがわかる…となるのでしょうか。
しかし、このあらすじは飽くまでスパイスであり(もちろん神がかった構成でストーリーの重要な伏線となって展開していきます)、全編通してりりこの苛烈な生き様と地獄を主軸に描いています。
私はこれまで様々なコンプレックスに悩まされ物陰から世間を羨んで見ていたのですが、りりこの強さに憧れを抱くと同時に彼女の抱える地獄の中ではとても生きられない自分の弱さにホッとしたりもしています。弱いからこそわざわざ地獄に赴くこともなく平穏に暮らしていけるのです。
ヘルタースケルター大好きで定期的に開いている漫画の一つです(ここで紹介している漫画全部がそうなのですが)。どのページからでも話に入っていけるくらいには読み込んでいるし何より岡崎京子先生のシンプルな線で描かれる意志の強い女の子を見るのが好きなのです。
“殺し合いの螺旋から俺は降りる”
辻風黄平 「バガボンド」井上雄彦
中学生の時に初めて読んだ時から一番よく思い返しているセリフ。
今も昔も私は不毛な争いをしがちで、それには相手がいることもあるけど、大体相手は自分自身という犬も食わない一人相撲です。
自分の尻尾を追う犬のようにクルクル周り続け、殴っても殴っても己のHPだけが下がっていくという無限地獄。全てが無駄だったんじゃないか?と絶望を抱いた時に一筋の光と共に差すこのセリフ「殺し合いの螺旋から俺は降りる」。
辻風黄平といえば無慈悲な生死感にいけすかない美男子、からの宍戸梅軒として再会した際の慎ましい山男(?)への転換にインパクトのある人物です。
ど、どうしちゃったの、ほんとに辻風黄平…?と読者と共に武蔵も戸惑いながら戦闘になだれこみます。
辻風黄平として武蔵と別れた後、彼はどうしたって敵わない強大な力(佐々木)に顔も心もメタメタに打ちのめされてしまう。
おそらくここが辻風にとって大きな転換点になり宍戸梅軒の襲名、龍胆との生活、鎖鎌の習得から武蔵への敗北を経て、かつての彼だったら絶対に口に出さないであろう「殺し合いの螺旋から俺は降りる」「俺達を助けてくれ」のセリフが出たのだろう。
死ぬくらいしか逃れる道のない悲惨な生い立ちで、全ての誇りを失ってさえもなお生きたいと思ったそのシーンに涙が出る。
どんな強大な力の前に倒れてもささやかな幸せさえあれば人は生きられる。
一人相撲とか恥ずかしいですね。
すいません、自分のこと並べるなんて恥知らずもいいところです。
辻風と私にほんの少しの共通点もありません。
それでもその生き様を見せてくれた名言を取り上げずにはいられませんでした。
登場人物の生き様あってこその名言
今回挙げた作品はどれも名作で他にもたくさんの名言があります。
私が挙げたセリフはそこまで膾炙しているわけではないかもしれません。
そのため私自身も初めて読んだ時にはそこまで印象的ではなかったけどその後何かのタイミングでふっと心に浮かんできたセリフを集めてみました。
子供の頃から一番身近で寄り添ってくれたのが漫画とアニメです。
当時も今も登場人物たちの運命や生き様に感動したり慰められたりし、今でもそこから出たセリフをお守りにしています。
テレビやネットで見る名言特集でも得られるものはありますが、まずは作品を読んで登場人物の生き様を見届けましょう!