誰にでも一つや二つはある幼児期に見たクレヨンしんちゃんナンバーワン映画。
今回は私の好きなクレヨンしんちゃん映画「雲黒斎の野望」について語ります。
正直ヘンダーランドと迷ったけど、本作はオタク人生における原点になるのでまずはこちらで。
好きなところ書いていきます。
雲黒斎の野望あらすじ
いつもと変わらぬ平凡な朝、シロがしゃべった。
聞けば未来から来たタイムパトロール隊員がやむを得ない状況に陥りシロの体を借りてコンタクトを取っているのだという。
何らかの理由で過去の改変があり、それを解決するために野原一家は彼女と過去へ出発することになる。
着いた先は戦国時代の春日部。早々に刺客達に狙われる一行は吹雪丸という剣士に助けられます。
雲黒斎という人物に吹雪丸の一族は滅ぼされており、その仇討ちの旅に野原一家は同行することになる。
戦国時代が舞台ということで名作「戦国大合戦」と比べられがちですが、本作はSFの要素を押し出しつつも少年漫画のようなチャンバラ活劇となっています。
戦国大合戦と比べるならばこちらはエンタメ要素が強いですが、敵に関しては雲黒斎以外ふざけているのは名前だけでほぼギャグ要素がなくシリアス。
そのため中盤の雲黒斎との戦いまでたまにしんちゃんのボケがあるくらいでけっこう真面目に展開が進みます。
しかし吹雪丸のキャラクターの作り込みなどエンタメだけにとどまらないところは初期のクレヨンしんちゃん映画ながら、後々の戦国大合戦などの大人にも響く作品の片鱗がのぞいているようにも感じます。
吹雪丸が原点なんです
私はローゼンメイデンの真紅やFateのセイバーなどのように誇り高いキャラクターを好きになりがちなのですが、おそらくその原点となるのがこの吹雪丸です。
誇り高いだけではなく、ピッカピカに高貴な身分なのに一騎当千の実力を持ち最後の生き残りになっても一人で戦い続ける気丈さに幼い私はくらっくらになったのです。
ただし吹雪丸はそんな完璧超人でも壮絶な葛藤を抱えています。
ここからネタバレです。
物語中盤で吹雪丸が女性であることが判明します。
本人の戦いぶりや意志の強さから男として生きていくことに腹を括っているように見受けられますが、所々葛藤が垣間見える瞬間が出てきます。
その最たるものがダイアナお銀との戦闘です。
お銀に女であることを見破られ、執拗に女であることを責められる吹雪丸。
掴まれていた長い髪を自ら切ることで逃れ、そのまま刃をお銀に突き立てます。
その際に放ったセリフ「私は、私は女ではない」。
よく見ると涙を流しているんですよね。
序盤で彼女は「もう泣かぬと決めた」と言っています。
そのセリフも、この涙もとてもささやかな演出で印象付ける意図はないかんじなので見落としがちですが、気づくと胸がぎゅっとなるシーンです。
最終的に大団円で戦国のターンは終わり、改変された時間が正され、吹雪丸は雲黒斎に滅ぼされる前の時間軸に戻ります。
まどろみから目を覚ますとそこは元の春日部城で、殺されたはずの母が側に立っている。
「なにやら夢を見ていたようです」と母に言う吹雪丸。
一族の滅亡も、雲黒斎の時間犯罪も、野原一家との出会いも夢だったことになっている。
全てが元通りで、日常が戻っている。
彼女にとっての日常とは男として生き、戦国の世で戦を繰り広げていくことである。
「良き夢でしたか」と母に聞かれれば、「分かりませぬ」と答える吹雪丸。
この結末は吹雪丸にとって本当に幸せなことだったのだろうか。
滅亡してでも一族というしがらみから抜け出せれば本当の自分として生きていくこともできたのではないか。
吹雪丸がどう生きたかったのかは私には読み取ることはできませんでした。
女の生き方がしたかったのか、男でありたいのに女として生まれた身の上を呪っていたのか、女であることを隠さずに男の生き方をすることを認めて欲しかったのか、色々邪推することはできますが作品上ではそこまで書き込まれていません。
そしてそこを書くのは野暮なことだと思うのです。
わからないからこそ惹かれるし、そこまで書いてしまうとクレヨンしんちゃんではなくなってしまうと思うのです。
大人しんちゃん作画の力の入れよう
吹雪丸の次に注目して欲しいのが大人しんちゃん。
劇中でしんちゃんは「タスケテケスタ」と叫ぶことで3回までお助け機能が使えることになっている。
要は何かに変身できるのだ。
ラスボス雲黒斎(ヒエール・ジョコマン)を前に3回目に変身したのが大人しんちゃん。
読んで字の如く大人の体になったのだ。
顔はマスクで隠されているが体がすごい!これ見よがしにフンドシなのもより注目度を高めます。
クレヨンしんちゃんの作画は基本的に体にかなりデフォルメをきかせていて、あまり肉感を感じさせないデザインなのですが、この大人しんちゃんだけは別物です。
筋肉やそれを浮かび上がらせる陰影、ここだけ見ると別アニメです。
後ほどヒロシも大人しんちゃんと同じような格好になるのですが肉感が全然違う。
殺陣シーンが素晴らしい
ヒエール相手に演じる大人しんちゃんの殺陣も素晴らしい動きです。
ずっと見てられる。
そのほかにも吹雪丸の雲黒城突入シーンも素晴らしかった。
ちなみに吹雪丸が何か叫んでから突入しているのですがそれが聞き取りづらく字幕で見てみたらどうやら「八幡!」と言っているみたいです。
そういえば平家物語でも那須与一が扇の的を射る際に「南無八幡大菩薩」と念じています。
検索してみると八幡神は武士からの信仰を集めていたようで、このような細かな描写にもこだわりを感じます。
細かな、と言っていいかは分かりませんが雲黒城内手前で馬のエンジが力尽きて倒れるところになんかリアリティを感じました。
吹雪丸の突入は主人公補正というか、多数の敵を蹴散らしたり塀を飛び越えたりとかなりカッコよく演出されていますが、やっぱり相当無茶だったのがエンジへのダメージで理解できます。
ワンカット入る刃こぼれしている吹雪丸の刀もそうですね。
音楽も好きなんです
「少年剣士吹雪丸」というタイトルのBGMが全編各所でかかるのですが、この曲がいいんです。
温泉で吹雪丸が静かに身の上を語る背後に、雲黒城に乗り込む前の疾走感に、乗り込んでからの緊迫感にアレンジを変えながらうまく作用しています。
おそらくこの曲をアレンジして最後のロボットでの対戦のテーマになっているのもアツいです。
映画のBGMって聞くとすぐにそのシーンが思い浮かびますよね。感じていた気持ちまでも呼び起こします。
音楽の力ってすごいです。
オタクとしての原点の一つである作品
吹雪丸のキャラクターにかっこいい殺陣や馬で敵陣に乗り込むシーン、そしてラストのABBAAB→→←の全てが魅力的なこの映画。
全てが大好きです。定期的に観ていますが何回観てもいいです。思い出補正もあるのでしょうが大人になっても楽しい。
ちなみに私が一番好きなシーンは吹雪丸vs 又旅猫ノ進のところで、倒れかかった吹雪丸が顔を上げた瞬間ズバッと振り払われた猫ノ進の刀が頬を掠めるところです。吹雪丸の表情がいいです。
子供にも大人にもおすすめする一本です。