思うように絵が描けない、絵を描きたいのに描きたい絵が思いつかない、気力がない。
創作者の誰もが一度は遭遇するのがスランプ。子供の頃から絵を描くのが趣味だった私も何十回もありました。
大抵は数日から長くても2〜3週間ほどだったのですが近年長期スランプになって以来今日まで脱出の目処が立たない事態に陥っております。
その期間なんと5年。
長い、長すぎる。
今回はそんな私の現在進行形長期スランプ体験記を記していきたいと思います。
中年漫画描きがスランプに陥るまでの軌跡
私は一次創作の漫画描きです。
わからない方のために具体的に言うと、趣味で自分で話と登場人物を考えてそれを漫画におこして描いています。
漫画描きというと今話題のあのファンタジー漫画や恋愛漫画、スポーツ漫画を想像するかもしれませんが私は完全ど素人なので、そういった商業漫画を高級レストランに例えるなら私はちょっと料理が得意な田舎のおばさんです。
腕前はというと近所にお裾分けすると嫌な顔をされるレベルです。
幼稚園の頃からお人形遊びとお絵描きが大好きで成長するにつれてそれらは漫画という形になって私の一番大好きな遊びであり続けていました。
初めのころは一緒に遊んでくれる友達はたくさんいましたが、成長とともにみんな料理や裁縫、またはオシャレや恋愛にそれぞれ興味が分岐していきその数を減らしていきます。
特に漫画描きという趣味は当時倦厭されがちだったオタク趣味に分類されたので急激に仲間が減っていきます。
ただネットの登場により全国のイラストを趣味とする人々に出会うことができ、私の漫画の趣味は勢いを削ぐことなく大人になっても一番楽しい遊びとしてあり続けました。
もちろんちょくちょくスランプはありましたがすぐに元の日常に戻れるくらいの軽い物でした。
たとえSNSに投稿した漫画の閲覧数が0であっても、コメントの一つももらったことがなくても描いては投稿し続けています。
何十年もそうして楽しく創作活動をしてきて創作だけは私を裏切らないと信じていたのに、30代になってなかなか抜けられない長期スランプにはまってしまったのです。
描きたい気持ちはあるのに気力と体力が追い付かず戸惑う日々。
時間が解決するだろうと待ってみても抜け出す兆しもなく5年という月日が経ってしまったのです。
漫画描きの長期スランプとは
話のアイデアが思いつかない
漫画の要といえばストーリーです。
私の場合はそのストーリー作りの前段階としてアイデア探しがあります。
アイデアといっても大したものではなく、小さな疑問とか誰かのちょっとした感情とかセリフなど心に引っかかったものから話を引っ張り出していくのですが、スランプに陥ると何も心に引っかからなくなります。
よってアイデアが出なくなります。
話が作れなくなる
運よくアイデアを得たとしてもアイデアだけでは漫画は描けません。
それを核にして登場人物や出来事を組み立てて話を作っていくのですがスランプになると頭にモヤがかかったかのように考えることが難しくなります。
意識ははっきりしてるのに寝ぼけているような状態です。
この状態になると論理的思考が一切できなくなり、無理に作ると支離滅裂なプロットになります。
自分の作品に興味が持てなくなる
アイデアを出して話の組み立てが完成してもそれらに興味が持てないと漫画を描くこと自体が苦痛になります。
そういう状態でつくる漫画って本当に面白くない。
たまに中身がないのに異様に面白い漫画ってあるじゃないですか。
やっぱり作者が自分の作品に最大級の関心を持って描いたものって読者にもその熱が伝わるんですよね。
その熱量を0度に下げるのがスランプ。
完成した作品を見ては嫌悪感だけが募っていく。
思い通りに絵が描けなくなる
絵があってこその漫画。
なのになんか上手く描けない。
この人物はこんな下膨れじゃないぞ、肩が広すぎる、左右の目の大きさが違う…。
手が強張ってしまったかのように自由な線が描けなくなる、それがスランプ。
以上の項目が数年単位で続くことが長期スランプです。
スランプの弊害
人生唯一の趣味が漫画描きの人間にとってスランプは絶望を意味します。
描きたい気持ちが残っていると最悪です。
描きたいのに描けない。本当にこれが辛い。
描きたい気持ちが膨れ上がってはち切れそうなのに出口がないから押しつぶされそうにる。
息ができない。
もうこの先の人生楽しいことなんて一切ないような気になってくる。
これがスランプ。
長期スランプの原因
スランプの原因は成長過程の一環であることや実力とのギャップなどがあげられます。
それらは主に短期スランプの原因に当てはまり数年単位で続くことはほぼありません。
長期スランプの原因はメンタル不調一択だと思っています。
ただしここで取り上げるのはなんかよく分からないけど調子が悪いな程度の生活に支障のないメンタル不調であることを心得てください。
生活が立ちいかなくなっていたり周囲の人を傷つけてしまうような調子の方は創作の長期スランプどころの話ではなくなっていると思われるので行政や病院への相談を視野に入れるようにしてください。
そのことに留意して読み進めていただけると嬉しいです。
年齢を重ねると、仕事、出産子育て、介護、病気、引っ越しなど本人に原因が無くかつ逃げたくても逃げられない悩みに直面することが多くなってくると思います。
仕事を放棄すれば生活が立ちいかなくなるし、子育てや介護には放棄すれば不利益を被る他人がいる。病気の放棄なんてもってのほかです。どうにかしたいけどどうにもできない悩みが増えていきます。
そういう時に助けになってくれるもののうちに趣味の占める割合はかなり大きいものと思われます。
私にとって漫画を描くことは楽しみのほかにも、辛い現実を耐え忍ぶための役目を兼ねていました。
自分が一生懸命考えて描いたものが絵や漫画という形になるあのカタルシスはアドレナリンをドバドバ放出しますし、完成原稿はとても愛おしいものです。
HPの消費は大きいがそれ以上に回復力のあるセルフケアという体裁をとっているのが私にとっての創作活動だったのです。
ただ創作というのは本人が思っている以上にエネルギーを使います。
本来趣味とは心の栄養になるものですが弱った心に創作のキャパを受け入れる余裕はありません。
困ったことに私はこれまでそのことに気づかず創作でのみ自分を癒してきたのでいざ創作ができなくなった時セルフケアの方法がこの世から消えました。
創作物が完成しないことには回復力を発揮しないのでただでさえ弱った心は創作のできない焦りにゴリゴリ削られていきます。
弱った心と創作をしたい気持ちが心の中でところかまわずストリートファイトしているのです。あんたたちいい加減にしなさいよ!
自分が創作に削られていることにも気づいていないので悪循環は止まらず時間の経過とともにダメージだけが蓄積していきます。
これが私の経験した長期スランプの原因です。
長期スランプの脱し方
創作をやめればそもそもスランプなんて存在しない♪
私にとって一番効果があったのは創作をやめることでした♪
こういうことを悩んでいる人の前でしゃあしゃあと言うとぶん殴られそうですがもう私にはこれしかなかったんです。
もちろん創作を辞めるなんて絶対にありえないと思ってあがき続けていましたがある日「もう諦めたほうが楽かもしれない」という言葉がぽかんと頭に浮かんだ瞬間肩の荷が一気に下りた気がしてその日から創作を一切辞めました。
とりあえず描く気が起きないうちは手すさびに落書きをしないように心に決め、画材は押し入れにしまい込んで視界に入らないようにしました。
これで心の中のストリートファイトはなくなったので少なくともメンタルの消耗はなくなり、あとは少しずつ回復を待つことができるようになりました。
半年くらいその状態でしたがある時ぽつぽつアイデアが出てくるようになり、ゆっくりとですが絵も描けるようになってきました。
そしてある事情があって休職せざるを得ない状況になりしばらく自宅で過ごしたことがあったのですが、休職期間中毎日起きている間全ての時間絵を描いていました。
その後休職期間が明けてその時ほど絵を描くことはなくなったのですが休職前よりも症状が軽くなっているように感じました。
自分の中で何かが変わったわけではなく環境が時間とともに改善して余裕ができたことがスランプ改善の糸口ににつながったものとみられます。
以上の経験から長期スランプは自分の意志だけで脱することはできないと私は考えています。
先述した通り創作には膨大なエネルギーを要します。
まずは心身の回復につとめることが、遠回りになってもいつか描ける日への近道になるのではないかと思います。
長期スランプ中の過ごし方
創作を封印していた時以外のスランプの時間にやっていたことを書いていきます。
メンタルが原因の場合のスランプ脱出効果は期待できませんが、もう少しあがきたい、腕がなまらないように何かしていたい、短期スランプ中の時には有効ではないでしょうか。
スランプ中の過ごし方で大切なことは自分のセンスや経験から創作をしないことだと思っています。
この時期エネルギーが切れているのだからそれを使うような創作はしないほうがいいです。
インプットしつつ自信を失わない創作をしましょう。
どういうことかというと頭を使わずに創作しようということです。
話作りの技術を学ぶ
どうせまともな話を作れなのだからこの機会に基礎に帰って話作りの基本を学びましょう。
教本を読んだら負けた気がするそこのあなた、仲間です。でも何か知った気になると結構自信がついたりします。
特にスランプ中は視野が狭くなりどうでもいいこだわりに固執しがちになるので勉強は有効な方法と言えます。
絵の技術を学ぶ
どうせまともな絵を描けないのだからこの機会に基礎に帰って絵の基本を学びましょう。
デッサンでも色塗りでも何でもいいです。色彩学なんかも絵に活かしやすいのでおすすめです。
創作絵は描けなくても模写で絵を描けば少なくとも腕は鈍りません。
好きな物を模写する
模写ってダルいものだけど好きな物なら苦になりにくいです。
私は好きな街や風景をグーグルのストリートビューで探したり、キレイな花や宝石のキラキラも好きなので図鑑など借りてきて模写しました。
好きな物を再確認すると枯れていた心がよみがえるのでメンタル維持にも効果があります。
ただし模写した絵については著作権やパクリ問題などが絡みやすいためネットなどに公開する時は注意しましょう。
運動する
体力と気力は連動しています!
運動大事!
絵画教室に通う
一人も大事だけど誰かと話をすると塞いでいた心に風が通ります。
油絵や日本画の技法など縁のなかった技法を学ぶと新鮮な気持ちになります。
また同じように絵を好む人と話もでき一石二鳥です。
もちろん絵と全く関係のないサークルでもいいです。
ブログを作る
オタクだけどインターネットとかブログとか全然わかりません。
でも勉強しながら少しずつ出来上がっていくのは創作と同じくらいの達成感があります。
特にブログ作成は配色を考えたりアイコンを作ったりと楽しんでできました。
できあがったらブログに思いの内を吐き出すと気持ちもすっきりします。
旅行する
与謝野晶子は創作に行き詰まると旅に出たそうです。
また文豪が旅館に缶詰めするのも同じ理由ではないかとにらんでいます。
文化の違う土地への滞在だったり、国内でも一週間以上さすらっていると家に帰ってきた時強くなった気がしています。
なんてことない風景も旅先では感動的に見えます。
動ける人は遠くへ行ってみるといいかもしれません。
まとめ
ここまで長々と私の長期スランプ体験談を書いてきましたが解決策もなく本当に参考にならなそうで申し訳なく思っています。
私もまだ完全にスランプを抜けているわけではないので引き続き経過を書いていきたいと思います。
スランプを抜けたとしても今度は老眼や更年期が待っているわけだし何となく薄暗い未来が見えます。
ただお年を召してもバンバン創作している方もいるのでそういう人たちのコツを探れたらいいなあ。